大判例

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大阪高等裁判所 昭和54年(う)1194号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

本件は、スナツクで飲酒中暴力団員から絡まれ、「いてしもたろか」などといわれて、ジヤンバーから何かを取り出す素振りや胸倉をつかまれるなどの挙動をされたので、とつさにポツカレモンのびんを割つて同人の顔面、頭部を二、三回突き刺したうえ、ペテイナイフで右側頭部、顔面を三、四回突き刺して死亡させたという事案である。

一審判決は、防衛の意思をも認めなかつたが、本判決は、相手がけん銃か刃物を取り出して襲いかかると誤信して反撃したものと認めて誤想過剰防衛とし、懲役五年を言渡したものである。

【判旨】

誤想防衛ないし誤想過剰防衛の点についてみると、関係証拠によれば、被告人は友人友澤守と原判示スナツクで飲酒中、同店に来た面識のない山形忠義から「わしは平和会の山中組の山形や」「兄さんはどこの組ですか」と話しかけられたが、被告人は以前山口組系溝橋組内大川組に関係していたものの正組員でなかつたうえ極道が嫌いで小指をつめて組と縁を切つていたので、「今は関係ないですよ」と言つただけで余り相手にならずにいたところ、しばらく経つてから、山形は自分が組と名前を明かしたのに被告人が「今は関係ないですよ」というだけで名を明かさないのを心よく思わなかつたためか、被告人の方を向いて「わしに恥をかかすんか」と言つてきたのに対し、被告人は最初黙つていたが、山形がなおも執ように絡んできたので、腹を立て、カウンターの一番奥にいた山形に近づいてその右隣りの椅子に腰を掛けて「おいこら今の言葉はなんや、恥をかかすとはどういうこつちや」などと詰問したため、同人と口論となり、その声でソフアーでうたたねをしていた右友澤守が目を覚まし、カウンターにあつたビールびんをカウンターに叩きつけて割り、「ええかげんにせえ」と怒鳴つて口論をやめさせようとしたが、被告人と山形はなおも口論を続けた末、山形は「ごちやごちや言うんやつたらいてしもたろか」と言つて、右手を着ていたジヤンバーの内に入れ何かを取り出す素振りを示すと共に、左手で被告人の胸倉をつかみに来たので、被告人は山形が暴力団員であると言つていたことや小指をつめていたことのほか、これまでの同人の言動などから考えて、同人が内にけん銃か刃物を持つているものと思い込み、同人がそれらの兇器を用いて被告人に侵害を加えて来るものと誤信し、我が身を守るためには先に攻撃するほかないと考え、とつさに同人の左手を振りはらい、右手でカウンターにあつたポツカレモンのびんをつかんでカウンターに叩きつけて割り、これで同人の顔面、頭部を二、三回突き刺したため、同人は後方のソフアーに倒れたが、被告人は山形がなおも右手をジヤンバーの内に入れていたので依然としてけん銃か刃物を取り出して侵害を加えて来るものと思い込み、我が身を守るため、更にカウンター内の調理台にあつたペテイナイフ(刃体の長さ約15.2センチメートル)をカウンター越しに取り上げて、これで突き刺せば死の結果が生ずるかも知れないことを知りながらソフアーの上にうつ伏せ状になつていた同人の右側頭部及び顔面を三、四回突き刺し、その結果同人に対し右耳介前部刺創による右浅側頭動脈切破等の傷害を負わせ、よつて原判示の日時場所で同人を右傷害により失血死させて殺害したことが認められる。

右の事実に基づいて考察すると、山形が「ごちやごちや言うんやつたらいてしもたろか」と言つて右手をジヤンバーの内に入れると共に、左手で被告人の胸倉をつかんできた際、実際は同人が何も持つていなかつたので、けん銃もしくは刃物を取り出して被告人に襲いかかることはありえず、したがつて客観的には急迫不正の侵害はなかつたのであるが、同人のそれまでの言動等当時の前示状況に徴すると、被告人において山形がジヤンバーの内にけん銃か刃物を隠し持ち、それを取り出して侵害を加えて来ると誤信したことは無理からぬところというべく、被告人が山形に対し、割つたポツカレモンのびんでその顔面、頭部を二、三回突き刺した行為は、同人の被告人に対する急迫不正の侵害行為があるものと誤信した結果、防衛行為としてなしたものと認めるのが相当である。しかしながら、被告人の右行為により山形が後方のソフアーに倒れ、抵抗する力もなく、うつ伏せ状になつていたのに、更に前示のように鋭利なペテイナイフで同人の右側頭部及び顔面を三、四回も突き刺したのは、被告人が当時我が身を守るため必死であつたことを考慮しても、明らかに防衛の程度を超えていたものと認めざるをえない。そうすると、被告人の行為は誤想防衛ではないが、誤想過剰防衛に当たるものというべきである。しかるに、被告人に防衛意思すら認めず、誤想過剰防衛を認めなかつた原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな刑の減免事由についての事実誤認があり、ひいては法令適用の誤りがある。各論旨は右の限度で理由がある。

よつて、その余の控訴理由(量刑不当)に対する判断を省略して、刑事訴訟法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により直ちに次のとおり判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和五三年一一月三〇日午前二時ころから、大阪市南区阪町五番地の二日宝阪町会館二階所在スナツク「タカコ」(経営者小林フミエ)において、友人友澤守と飲酒していたところ、同日午前五時ころ山形忠義(当時三四歳)が来店して飲酒しはじめ、しばらくして同人が被告人に対し「わしは平和会の山中組の山形や」と名乗つて暴力団員であることを話すと共に「兄さんはどこの組ですか」と話しかけてきたが、これに対し被告人は「今は関係ないですよ」と言つただけで余り相手にならずにいたところ、同日午前六時過ぎころ、同人が被告人に対して「わしに恥をかかすんか」と執ように絡んできたので、これに腹を立て、同人に近づいて右隣りの椅子に腰を掛け、「おいこら今の言葉はなんや、恥をかかすとはどういうこつちや」などと詰問したため、同人と口論となり、その声でうたたねをしていた友澤が目を覚ましてカウンターにあつたビールびんをカウンターに叩きつけて割り、「ええかげんにせえ」と怒鳴つて口論をやめさせようとしたのになお口論を続けた末、同日午前六時四〇分ころ、山形が「ごちやごちや言うんやつたらいてしもたろか」と言つて、右手を着用していたジヤンバーの内に入れ何かを取り出す素振りを示し、左手で被告人の胸倉をつかみに来たので、これは同人のそれまでの言動等からみて同人がけん銃か刃物を持つており、それらの凶器を用いて被告人に侵害を加えて来るものと誤信し、自己の生命、身体を防衛するためには、侵害を受ける前に攻撃するほかないと考え、とつさに同人の左手を振りはらい、右手でカウンターにあつたポツカレモンのびんをつかんでカウンターに叩きつけて割り、これで同人の顔面、頭部を二、三回突き刺し、そのため同人が後方のソフアーに倒れたのに、更にカウンター内の調理台にあつた刃体の長さ約15.2センチメートルのペテイナイフをカウンター越しに取り上げ、これで突き刺せば死の結果が生ずるかも知れないことを知りながらソフアーの上にうつ伏せになつていた同人の右側頭部、顔面をあえて三、四回突き刺し、これによつて右耳介前部刺創による右浅側頭動脈切破等の傷害を負わせ、よつて、同日午前七時三二分ころ、大阪市浪速区東円手町八一〇番地富永神経外科病院において、前示右浅側頭動脈切破により同人を失血死させて殺害したが、右は防衛の程度を超えたものである。

(児島武雄 角敬 角田進)

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